外国人向け賃貸の魅力と将来性

外国人向け賃貸の魅力と将来性
~グローバル化とダイバーシティ~

平成29年度第2回流通関連セミナーを平成30年1月22日(月)、全日東京会館「全日ホール」で開催しました。

テーマは「外国人向け賃貸の魅力と将来性~グローバル化とダイバーシティ~」

外国人が急増するも、受け入れオーナーに拒否感

2018年の東京23区における新成人の8人に1人が外国人になりました。これは今年に限らずこのところの傾向になっています。とりわけ多いのが新宿区で、成人のうち45.7%が外国人です。このほかでも豊島区が38.8%、中野区が27.0%で、台東区、荒川区も含めた6区で20%を超えてきています。5年前に比べて留学生が1.7倍の約10万5000人、技能実習生も3.4倍の約6600人と大きく増加していることが背景にあり、20歳前後の世代が日本にやってきています。また、賃貸住宅を借りる人たちにはこの年代が多いので、これだけの需要にどう対応するかは経営にも大きく関わる時代になってきました。

一方で、外国人が部屋を探した時に入居を拒否される例は少なくありません。入居を断られた外国人は4割いるという調査結果もありますが、私の会社で物件を仲介する際、ほかの不動産会社に物件の有無を問い合わせると9割近い割合で貸せる物件がないという返答がきますから、実態はさらに多いのではないでしょうか。最近は民泊を利用する外国人観光客のマナーの問題がメディアで取り上げられることも多く、そうした情報に触れる中で賃貸住宅を外国人に貸す不安感も高まっているようです。

また、オーナーと不動産会社ではそれぞれに拒否する理由があります。オーナーは、日本の生活習慣の説明やトラブルが発生した際の対応に言葉の壁があり、適切な説明や交渉ができないと心配するケースが多いです。不動産会社は、オーナーに外国人でも大丈夫と説明したくても、オーナーを納得させるだけの実績や材料が乏しく、積極的に提案できないという課題があります。オーナーは不動産会社でトラブル対応ができれば良いとも考えており、不動産会社の対応力が問われるところにもなっています。

習慣の違いを認識するだけでも交渉はスムーズに進む

外国人としても必ずしもトラブルを起こそうとしているわけではありません。外国人からすると、契約書や重要事項説明書の内容を説明されないから、どういうことが問題になるのかわからない、という言い分もあります。契約書などの難解な言葉を説明するのが難しく、きちんと説明しない日本の不動産会社も多いのです。そうすると外国人はルールを知らないため、知らずにやったことがトラブルの元だった、ということになるのです。

例えば中国では、朝のうちにゴミを廊下に出しておくと管理員が回収するマンションもあります。そうした習慣のもと暮らしていれば、そうするものだと思って廊下にゴミを出しているということもあります。また、母国では階級が高く自炊をする必要がなかったものの、日本では自炊をしなければならないというケースもあり、初めて操作した機械に水をかけて故障させ、トラブルになったこともあります。生活習慣の違いを理解し、それぞれの国の事情を把握して対応するべきでしょう。

また、入居中に何かあったときに連絡するところがわからないという点も見逃せません。日本は元付、客付、管理会社、オーナーといろいろな主体があり、外国人も何かあった時にどこに連絡すべきかわからないのです。物件を探すときに仲介会社を通さない国も多いため、日本の仕組みを複雑に感じている外国人も多いようです。

保証人の問題もあります。外国人だと日本人の保証人がいないと部屋が借りられないというケースも少なくないですが、日本人の保証人を見つけるのは彼らにとって至難の業です。これも入居中に何かあったときに対応できる不動産会社がいないというところは課題なのかと思います。また、契約形態の違いも理解しておくべきでしょう。礼金や保証人の仕組みは海外にはほとんどありません。外国人はなぜこんなことを聞いてくるのか、とコミュニケーションに齟齬が生じ、うまく交渉できない理由にもなりますが、契約の仕組みの違いを頭に入れておくだけでも交渉がスムーズに進むでしょう。

外国人を最初から断らずにツールを生かして接点を持つ

こうした問題を解決しようとする取り組みも進んでいます。私が理事を務めている日本賃貸住宅管理協会では、外国人受け入れに向けた『外国人居住安定化のためのガイドライン』を作成しています。オーナーや不動産業者向けに、外国人への賃貸業務に取り組む上での基礎知識や業務手順のほか、契約書や重要事項説明書、入居申込書を外国語に翻訳したものを盛り込んでいます。入居申込書は外国人に確認しておくべき内容を記載し、円滑な入居ができるようにしています。

外国人向けの部屋探しのガイドブックも作成しています。部屋を借りるときの契約の流れや、必要な書類と費用、住まい方のルールなどについて説明したもので、見開きページの左側に日本語、右側にその日本語を翻訳した外国語が記載された形式となっています。日本語が話せない外国人が不動産会社を訪れたときに活用してもらう目的で作成していて、ガイドブックを相手に見せて該当する部分を指さしてもらえれば、何を求めているかがわかるようになっています。ガイドブックだけで契約までこぎつけるのは難しいですが、話ができないからと最初から断る前に、少しだけでも対応して話を聞いておき、あとは日本人の友達を連れてきてもらい、間に入ってもらえればよいでしょう。こうすることでビジネスチャンスが広がっていくことになります。こうしたツールは、説明して理解されなければいけないので、日本語学校のオリエンテーションでガイドブックを使って紹介すると喜ばれます。当社でもソウルにある支店でガイドブックをみせて説明し、契約にこぎつけました。

また、外国人をスタッフとして雇用するのもひとつの方法でしょう。不動産業界でも人材不足の状況は顕著になっています。外国人対応にとどまらず、日本人への対応でも能力を発揮している外国人スタッフも現れてきており、日本人の顧客にも対応してほしいという不動産会社のニーズも高まっているのを感じます。実際、ある不動産会社では14人の外国人スタッフを迎え、7人は宅地建物取引士の資格を取得するなど、大変意欲的に業務に当たっているケースもみられています。中国人や韓国人は日本語を覚えやすく、ベトナム人は勤勉といった傾向もあるようです。

 

外国人の志向を把握すると空き室も人気物件になる

外国人が借りたい部屋は、日本人の好みとは違うことがままあります。日本人を対象にしていたところから外国人をターゲットにすることで、それまで空き室になることが多かった部屋に人気が出たケースも増えています。例えば、バスとトイレが一緒になっている部屋は日本人には人気が低いですが、外国人にとっては自国の生活でもそうした形式が多い上、バスタブにつかる文化がないため、抵抗感があまりありません。また築年数の浅い建物を日本人は好みますが、外国人は母国に古い物件が多いため気にしていません。

海外では家具付きの物件が一般的という国も多いです。築年数の経過した物件でも家具付きでユニットバスに改修して留学生向けに貸し出したら人気が出た、というケースもあります。外国人は短期入居することが多く、そうした需要を受け入れ、リピーターを確保すれば長期的な入居も見込めます。そうなれば不動産業のビジネスも拡大してくるでしょう。住宅に入居する際の説明や注意喚起をしっかり行うこともビジネスにつながるでしょう。外国人の受け入れによって、日本経済の活性化につなげられればと思います。

2018.1.22開催:全日本不動産関東流通センター

 

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