畳の上に新聞紙

畳の上に新聞紙

                          パキスタン人 アリ・リズビ
                       
 なんか変だとは思っていたのです。なぜ日本人はこんな住まい方をするのか?でも日本についての情報や知識がまったくないまま、日本にやって来てしまったもので、もしかして、日本ではこうするものかと、「郷に入っては郷に従え」方式で従う事にしました。

 私は、カラチの大学で社会学を教えていたのですが、日本の機関から要請があり1年間日本の大学で研究する事になりました。もちろん日本には興味もあり来たかった国ではあったのですが、何しろ突然決定したものですから、何の準備もしないでやって来ました。

 行く大学が決まり、そこで次はその大学まで通えるアパート探しということになり、事務局で紹介してくれた不動産会社に行く事になりました。 そこの会社の担当者とは英語でやり取りが出来ましたので、特に部屋探しそして契約にいたっては問題は無かったと思っています。ただ契約にあたって、不動産屋さんの彼の説明で1つ気になった事があったのです。それは、部屋を綺麗に使わないと出るとき敷金が戻ってこないどころか場合によっては、損害賠償金を払わなくてはいけないケースもあるという事でした。

「ひや!これは注意しよう。綺麗に使わないとえらい事になるぞ」とそのとき思いました。多分日本人にとってはそんな大事ではないのでしょうが、物価のまったく違う国から来ている私にとって、もしかして何十万も請求されるということは大変な事なのです。今回の滞在に関しては、必要経費、生活費は日本国から支給されるのですが、それ以外はもちろん自己負担です。ですから事故など絶対に起こせません。

 不動産屋さんの彼の言う通り、部屋は綺麗に使う事にしました。まず考えたのは、畳マットを汚さない事。土足でこの上に上がってはいけないことは教えてもらいましたし、日本に着てから、あちこちから招待を受けて日本の家もだいぶ見慣れてたし、家での作法も少しだけわかって来ました。ただ、ぜったい汚さないためにはどうしたらよいか。これを解決する無くてはならないため、私は畳の上に新聞紙を敷き詰める事にしました。ただその上を素足で歩くと足が汚れるため、店で買った300円のサンダル(ビーチサンダル)をはいて生活を始めました。これはけして快適とはいえませんでした。なぜかといえば、歩くたびにガサガサ音がして、フトンを引く時など、新聞紙があちこちに飛んでしまい、また綺麗に敷き直ししなければなりません。これが面倒でした。でもそのたびに不動産会社の彼の言った言葉、そして彼の顔が浮かぶのでした。

 彼には世話になったし、というのは部屋が決まったあと、家具や寝具の手配、そして電話の手配にいたるまで、色々面倒見てもらったからです。この間は、シンガポールの女性と彼と3人で食事会などもしました。

 そんな事もあり彼の言った事は絶対守りたかったのです。ある日その彼が私のところに様子見にやって来ました。ドアを開けた瞬間彼はビックリした顔をしながら言いました。「どうしたの。なぜ部屋に新聞紙を敷いているの?パキスタンではこうするの?」
 その後なぜこうしたかを彼に説明すると、彼は「ごめんなさい。あまり契約のとき脅かし過ぎたのね。もっと自由に快適に生活していいのよ」だって。もっと早く言って欲しかった。

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