第35回 窓の外は日が燦燦あたる墓地だった
日本人は南向き第一主義、さて外国人は?
「日本人は部屋を探すとき、窓からの“景観”よりも“南向き”を重視するのですか?」と、来日して10年になる中国人留学生の金さんから質問を受けた。
金さんも他の外国人同様、アパート探しではなかなか思うような部屋が見つからず、毎回苦労しているらしい。来日間もない時のことだが、金さんは近所の不動産屋からアパートを紹介された。そのアパートは商店街から少し入った閑静な住宅地にあり、建物もまだ新しくおしゃれな感じで、環境、外観ともに申し分なく、早速部屋の中を見せてもらうことにした。広くはないが小奇麗な部屋には陽がよく入っていて気持ちのよい部屋であった。だが窓側に進み外に目をやると、そこはなんとお墓だった。「南向きで、しかも前には建物がないから日当たりは最高ですよ!」と不動産屋。でも、「お墓、怖い」と感じた金さんは、慌ててそこから逃げ出したそうだ。
中国ではお墓は住宅地などにはなく、遠く人里はなれた場所にあるらしい。「死んだ人と生きている人が同じ場所というのは奇妙だし、いくら“南向き”で日当たりが良いとは言え、前がお墓では気が休まらないのでは」と、日本人のお墓に対する感覚に金さんはとまどいぎみだ。
また、「去年パリに行った時、パリの人達はとてもセーヌ川を大切にしていて、川を挟んだ両側の建物はすべて川に向かって建っていた。セーヌ川をボートで下っていくとすべてのお店や家の正面部分(キレイな部分)が両側に見えた。帰国してから江戸川に行ってみたが、川の両面は家々の壁面(無愛想な部分)で囲まれていた。これも“南向き”を重視したせいなのでしょうか?」と日本人の景観感に疑問を持つ日本人女性がいる。
ドイツでは自分の持ち家であっても、レンガ一枚変えるのに行政の指導を仰がなければいけない町がある。「家は個人のものであっても景観は皆のものだ」とする考え方からであろう。観光・ビジネスで多くの外国人が日本を訪れるようになってきた。その人達に日本の景観を楽しんでもらいたいものだが、景観づくりは個人の力では限界がある。街ぐるみで手をたずさえる必要があり、それにはわれわれ不動産業界の意識改革も欠かせない。