感染症対応賃貸不動産管理業マニュアル 「緊急事態宣言」による重要労務対策

3「緊急事態宣言」による重要労務対策

「緊急事態宣言」による重要労務対策

特別措置法における「緊急事態宣言」

「緊急事態宣言」なるものは、新型インフルエンザ特別措置法を根拠としています。第201回国会(常会)における改正で、新型コロナウイルスも対象とされました(2020年3月13日成立)。

同法によると、政府対策本部長は、要件に該当する場合、期間、区域、概要とともに、緊急事態宣言をすることができます(同法32条)。

この場合、特定都道府県知事は、住民に対して、外出しないよう「要請」したり、学校や特定施設の使用制限、停止要請等を「要請」したりすることができます(同法45条)。

また、臨時の医療施設利用のため、所有者の同意なく土地利用したり(同法49条2項)、医薬品の売り渡しを求めたりする(同法47条)等、一部は強制力をもって対応することが可能となります。

つまり、現時点でわが国において発動できる「緊急事態宣言」は、海外で出されているいわゆる「非常事態宣言」「ロックダウン」のような強制力の強いものではなく、住民の生活に対してはあくまで「要請」レベルにとどまる点は変更ありません。

この点は、日本が、敗戦の教訓から、いかなる場合においても国家権力が強大化しないように配慮している結果であるといえるでしょう。したがって、企業の労務管理上の対応について、原則として、直接的強制的な影響はないようです。

緊急事態宣言が出された場合の労務管理対応

(1) 会社休業の必要性 賃金補償

一般の会社に対して、直接的に国や自治体が休業や停止を命ずることはできません。

法律に基づき、利用停止や制限を求められた施設等についても、あくまで協力要請にすぎませんので、原則として、会社の判断で休業にしたと解され、従業員を休業させる場合には、休業手当(労働基準法26条)の支払いを要する場合がほとんどでしょう。

しかし、状況によっては「不可抗力」といいうるケースも生じるでしょうし、その場合には休業手当も不要ですが、不可抗力か否かは、「当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断」することになります(厚生労働省Q&A 4休業手当)。

(2) 通勤を拒む従業員への対応

本来的には、労働契約上、従業員には労務提供義務がありますので、就労すべきとの業務命令には従う必要があり、正当な理由なくして拒否すると懲戒処分の対象となります。

とはいえ、ご承知のとおり、企業は、従業員の生命、身体の安全を守る安全配慮義務を負っています。

また、今回の新型コロナウイルスは感染力も強く、無症状の者が感染を引き起こす場合があることや、医療崩壊のおそれも取り沙汰されている現状を踏まえると、「感染が怖い」という従業員の申出は、単なるわがままととらえることはできないでしょう。

従業員は、労働契約とはいえ、どこまで危険な業務を遂行する義務を負うのか。

この点、少なくとも、業務命令が万能であるわけではありません。

高齢者と同居している等、感染リスクへの配慮も人によって異なります。

したがって、原則的に、職場での感染を最大限防止する措置をとりつつ、出社を躊躇する従業員については、できる限り他の従業員がテレワークを実施している中で出勤してもらうことについて同意を得るべきでしょう。

なお、自主的に休む従業員への賃金補償は原則不要である点は後の厚生労働省Q&Aのとおりです。

(3) 会社負担による近隣ホテルを利用する出勤

そもそも緊急事態宣言時に近隣のホテルが稼働しているのか疑問ですが、それは措いて、近隣のホテルに宿泊しての出社については、近くのホテルに宿泊させる、という点は、あくまで「要請」「お願い」レベルでは可能であり、やはり業務命令として強制することはできません。

というのは、従業員は職場での労務の提供義務があるものの、私生活上の行為までは会社から制限されるいわれはないからです。

また、言うまでもなく、育児や介護をしている従業員には、強制できるはずもありません。

いずれにせよ、緊急事態ですし、従業員が了解するなら問題ありませんので、あくまで要請レベルで対応いただき、了解しない従業員にどのような事情で了解できないのか確認し、そこに配慮するなどの措置を検討するよりほかありません。

(4) 交通手段の遮断・制限により出社できない従業員への休業補償

感染症予防法では、「都道府県知事が、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、72時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。」(同法33条)との定めがあります。

2020年3月27日の政令改正で、新型コロナウイルスも「一類感染症」に含まれましたので、「緊急事態宣言」の有無にかかわらず、交通手段の遮断・制限がなされる場合が想定できます。

ただし、たとえば公共交通機関が緊急事態宣言を受けて自主的な判断により運休した場合等を含み、公共交通機関が制限される事態に陥ったとしても、前記(1)で述べたとおり、基本的には労務提供義務を従業員が果たせるかどうか、あるいは不可抗力といえるかどうかで判断することになりますので、一律に休業手当は不要とはいいがたいでしょう。

他方で、実際上タクシーや自家用車も含めて勤務ができない、という事態(つまり不可抗力だといえるような状況にあれば)賃金支払いを不要と解することができる場合もあります。

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