「J&F(Japanese & Foreigner)ハウス」の取り組み
- 2006/4/15
- 異文化共生住宅
住宅No55号 3月号 「外国人居住の現状と課題」(社団法人日本住宅協会の機関誌)に掲載された記事です。 筆者はJ&F(Japanese & Foreigner)ハウス
●外国人というだけで部屋を断られる現実
弊社の前身は、東京新宿区に本社をおく賃貸不動産管理のイチイ産業株式会社(現:株式会社イチイ)の国際部である。国際部では約30年前から、東京都内の一般賃貸物件を外国人に紹介していた。私が入社したのは1998年だが、当時も部屋探しに困っている外国人からの問い合わせは多かった。私は元々不動産とは関係ない業種から転職してきたせいか、入社後に受けたショックは大きかった。この業界全体の、外国人に対する差別である。
一般的な不動産会社と一緒で、国際部でもお客様の希望に見合う物件が自社管理物件にない場合は、別の不動産会社の物件を紹介する。その時の反応があまりにもひどかった。紹介する人が外国人とわかると、「無理!」と即答する不動産会社がほとんどなのである。理由はただ単に「外国人だから」ということだ。また、外国人入居が可能な物件があったとしても、その物件担当者は「白か黒か?」と聞いてくる。「入居者は白人か黒人か?」という意味だが、肌の色で可否を決めるのは人種差別以外の何ものでもない。
とはいいながら、私達の自社管理物件においても、物件オーナーから外国人の入居を認められないケースが多かったのも事実で、当時の国際部は外国人対応専門の部署だったにもかかわらず、問い合わせをしてきた外国人に対して要望に応えられることは、残念ながら少なかった。
●古い建物をゲストハウスとして再生する
そんななか、1999年に1つの転機が訪れた。新宿2丁目にある築40年のRC造り3階建ての簡易ビジネスホテルを何かに利用できないか、というオーナーからの相談が舞い込んだのである。当社ではその1年前に、都内北区で外国人向けのゲストハウスを試験的にオープンさせており、それが好評だったので、これを新宿でやったらどうかとオーナーに持ちかけた。
それには数千万円の費用がかかる。しかし、簡易ビジネスホテルといってもそれまでは宿泊客はほとんどなく、お客があったときに1泊4000円の宿泊料が入るだけだった。これをゲストハウスにすると、同じ1部屋でも月に7~8万円の賃料が入る。現オーナーは先代の母親から引き継いだ息子さんだが、築40年と古いので当初は建て替えも検討していたらしい。だが、ゼネコンから出された見積書を見た税理士が「建て替えのメリットなし」と判断。それを受けて、弊社に相談したのであった。いろいろ検討した結果、オーナーはこの新しい試み「ゲストハウス」に賭けることにした。
用途変更のためのコンバージョン工事には3400万円かかった。これは建物が古いので外壁改修や防水工事を必要としたこと、内装も1階の壁を取り払ってラウンジにしたこと、客室も和室からフローリングにしたこと、全室にエアコンを設置したことなどによる。しかし、リニューアルされた全11室は最初からフル稼働状態で、改修費用は最初の4年間で償却できている。
弊社ではこうしたゲストハウスを、日本人と外国人の共生を意味する「J&F(Japanese & Foreigner)ハウス」と命名し、首都圏に次々と増やしていった。