大家さんたちの異文化共生

大家さんたちの異文化共生
東十条とロンドンは姉妹都市

「ゲストハウス」について10回程度ということで始めた連載であるが、気づいてみれば今回で55回目。外国人の住宅問題に焦点をあてながら、外国と日本の賃貸借システムの違いや、生活習慣の違いから起こるトラブル、そしてほのぼのとしたエピソードについて紹介してきた。もう話も出尽くしたかと思っていたが、まだひとつだけ忘れていたことが。

「大家と言えば親も同然、店子といえば子も同然」とは古き良き時代のことなのか、今ではすっかり聞くことがなくなった。だがこんな形で、まだ江戸時代の大家と店子関係が残っていたのだ。
私が外国人にアパートの紹介事業を始めた1977年。ざっと30年前だが、当時は今ほど外国人も多くなく、外国人居住が社会問題として取り上げられるような事もなかった。だが外国人入居は今よりはるかに厳しかった。大家も不動産屋も経験した事がなく、対応方法が分からなかった。そして日本の人口の1%にも満たない在住外国人は無視された。

ある日、大きなボストンバックをぶら提げた若いイギリス人カップルが、私の事務所を訪ねてきた。彼らはロンドンで聞いた日本の英語事情から「英会話教師の仕事だったら簡単に見つかりそうだ」と、失業率が高く仕事が見つけにくいイギリスを飛び出し、東京に新天地を求めた。だが日本語がまったく話せない彼らは、何もするにも右往左往。新聞を見て今日から住めるところを探しに私のところに来たのだった。

困った時の神谷(北区神谷の大家)頼みと、これまで何人も外国人を受け入れてくれ、無理も聞いてくれるこの大家のところに連絡。運よく部屋も空いていて、そのまま入居させてもらう事にした。
一旦事務所に戻った私だったが、気になり会社帰りに立ち寄ってみると、驚いたことに部屋にはテーブルやイス、小さいが食器棚、そして食器や鍋まで…。生活できるようにと大家が用意してくれていたのだ。
その後、イギリス人店子は大家が経営する塾を手伝ったり、ロンドンから両親が遊びに来た時は大家宅に宿泊。大家もロンドンに行ってはこの両親の家に泊まらせてもらったりと、まるで親戚・家族同様の付き合いになった。

他にもエルサレムの大学教授に占星術のソフトを開発させ、一緒に商売をはじめた大家。ルームシェアを始めた家主の息子とアメリカ人店子。そして、お正月を中国人、モンゴル人留学生といっしょに祝う大家などいろいろいた。

ボーダレス化が益々加速している。もっと多くの「大家と外国人店子関係」が生まれることを期待して、連載を終了させていただく。

株式会社イチイ 荻野

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